記者の眼記者の眼

第292回 (2025年4月16日)

 世界は新たな社会思想の始まりを迎えた可能性がある。トランプ大統領の出現だ。経済学者や現代史学者などが後に振り返り、今生きる時代を新たに定義し、名前を付けるかもしれない。

 

 これまで世界は1970年代に始まるとされる新自由主義のもと、長らく続いたグローバリズムの時代に生きた。企業の収益最大化こそが正義となる。裏付けとなる自由貿易は大戦後、米国こそが旗振り役だった。当初は海外投資により安価な人件費にアクセスすることで収益を高められたため、旧西側諸国の工場移転は加速度的に進んだ。

 

 米国の大統領は旗振り役だった自由貿易に「待った」をかけた。中国などによるルールを利用した保護貿易はさておき、米国の動きは自由貿易に対する挑戦であり、米国の需要を人質とした利己的で保護主義的な戦略でもある。第一次政権から保護色を出していたが、米国の同盟国は「聞いてないよォ」、「ちょっと待ってよォ」と某お笑いグループの決め台詞が思わず口をつくだろう。

 

 日本をはじめ各国政府は自国の経済・政治的な立ち位置を踏まえ、自国が持つ武器を手に米国と交渉を重ね、企業も交渉をみながら新たなサプライチェーンの検討に乗り出すかもしれない。

 

 私が取材対象とする石油化学は製造業のサプライチェーンの始まりだ。政府、企業の交渉や検討の結果が取引に結実する。日々の取材でもたらされる言葉を手がかりに新たな世界秩序を知る冒険は続く。

  

(北村)

 

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