記者の眼記者の眼

第291回 (2025年4月9日)

 「流動性は一度枯れると、もう元に戻らないんですよ」

 

 長年エネルギー業界に携わり、現在では電力先物市場の発展に尽力されている方の言葉だ。流動性とはその名のとおり、流れ動く性質を意味する。でも、なんとなく分かったようでよく分からない。いったいその正体は何だろう。

 

 一般的に株式市場では、買いたいときにいつでも売ってくれる、売りたいときにいつでも買ってくれる相手が見つかる、時価総額の大きい大型株を流動性が高い銘柄と呼ぶ。エネルギー取引におけるその答えはつまるところ、市場からの信任ではないかと思う。売買したいときに相手が見つかる安心感に加え、商品設計の巧みさや決済の利便性、債務不履行のリスクが低いことも信任につながる。

 

 時流に乗った人気の先物商品が登場すると、二匹目のドジョウを狙って、さまざまな取引所がこぞって市場に参入する。しかし、流動性は時間をかけて、地道に築き上げていくものだ。信任を得るのは決して一筋縄ではいかない。流動性の乏しい市場には誰も近寄らない。そして信任は一度損なわれると、もう元には戻らない。

 

 業界紙の仕事もどこか似ている気がする。取引相手の確保とは少し意味が違うが、相場水準を確認したい読者に、つねに公正かつ正確なアセスメントを提供する。何か知りたいことがあれば、いつでもヒントになる情報が載っている。われわれが日々発行するレポートも、市場からの信任を得た流動性のような存在でありたい。

  

(狩野)

 

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