2025年をどう見るか。7人の金融機関やシンクタンクのアナリスト、さらに独立系アナリストは「トランプ次期大統領のエネルギー政策の動向」、「OPECプラスの動向」を注目材料に挙げている。 また、米シェールオイル動向が相場を左右すると、複数アナリストが挙げた。足元では中東やウクライナ情勢の地政学リスクが高まるなど強材料が散見されるなか、25年相場はボラティリティが極めて高いとの見方で一致している。 7人のアナリストによる25年の原油価格予想レンジは、WTI原油先物で55~100ドル、ブレント原油先物で60~105ドル。
ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは、25年の注目している事柄について「トランプ政権の政策発動がいつ、何を、どの程度実行するか」、「米とイラン関係の対立激化の有無」、「OPECプラスの減産動向」の3つを挙げた。上野氏の予想では、トランプ政権発足当初は、「原油増産促進策の発表」と「対中国関税の引き上げ」を受け、原油価格は下押しされるとみる。ただ、来春以降は戦略備蓄の積み増し、さらに締め付け強化によるイランとベネズエラの供給減リスクが警戒され、相場はやや持ち直す可能性が高いという。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至主任研究員は引き続き中東やウクライナの地政学的リスク、さらにトランプ政権の政策が予見しにくいため、「ある程度ボラティリティは大きい動きになる」との見方を示した。もっとも、中国景気の停滞は続くものの、「65ドル以下では米シェールオイルの開発は抑制される」とし、下値も限られるとの見方を示した。 なお、トランプ政権が化石燃料の増産を志向しているとみられるなか、「OPECプラスの対応に注目している」と付け加えた。
一方、マーケットリスク・アドバイザリーの新村直弘共同代表は「緩やかな景気回復にタイムリーなOPECプラスの増産が重なり、上昇は抑制される見通し」と語る。さらに25年は中国経済が米関税強化などの影響で「顕著に下振れするリスクが無視できない」と強調。続けて「同時に経済対策が奏功して上振れる可能性もある」とし、上下の振れ幅がかなり大きな年になると想定している。トランプ大統領誕生後にイスラエルへの支援が加速し、「イランを含む紛争が激しくなって原油供給が途絶、価格が急騰するリスクも無視できない」と警戒感を滲ませた。
野村證券の高島雄貴エコノミストは、原油は供給過剰で下落圧力が生じやすいものの、米シェールオイルの生産コストの観点から「60ドル付近では反発しやすい」と述べた。ただ、OPECプラスに生産余力があることに加え、中国景気の弱さから原油需要が鈍化しており、地政学リスクの高まりによる上昇圧力が生じた場合でも「80ドル付近が天井」とみる。 一方、トランプ政権のエネルギー政策は、産油企業が生産コスト割れでも増産を可能とするような減税や補助金などの支援策実施有無に注目し、「そのような支援策が実施された場合、原油価格が大幅に下落するリスクがある」と指摘した。
エネルギー・金属鉱物資源機構の野神隆之首席エコノミストは、WTI原油が70~90ドル、ブレント原油が75~95ドルと予想する一方で、「25年はこの範囲を超過して原油価格が変動する局面もありうる」との見方を示した。野神氏は上振れ要因として下記の3つを挙げた。 ①トランプ政権の対イラン強攻策実施、イラン原油の供給低下可能性に対する市場の反応。 ②トランプ大統領による地球環境支援政策の後退と石油需要の増加期待。
③米国シェールオイルなどの生産減速可能性が増大。
一方、下振れ要因としては下記の3つを挙げた。 ①トランプ大統領の関税政策の実施による中国経済の減速と石油需要の伸び鈍化懸念、米国の物価上昇加速と政策金利引き下げ停止による経済減速と石油需要の鈍化懸念の増大。 ②WTI原油価格が90ドルを超えた水準で推移するほど、物価上昇を招き、政策金利引き上げの観測が増大する。 ③WTI原油価格が90ドルを超えた場合、シェールオイルの生産加速の可能性が増大。
マーケットエッジの小菅努代表取締役は、「原油は供給過多で価格リスクは下向き」との見方を示した。原油需要は24年に続いて非OPECプラスの増産でカバーできる範囲内に収まり、OPECプラスは通年で供給量の大規模な調整が難しいという。ただ、「中東とウクライナ情勢、トランプ政権の需給に与える影響には不確実性が大きい。上昇の有無は突発的な供給障害の有無に依存する24年と同様だ」と指摘する。 なお、ドル水準の大きな変動は想定しておらず、地政学リスクやSPR積み増しによる追加的需要、価格低下による需給調整の動きが下落余地を限定するとした。
小菅氏もトランプ政権の影響について非常に関心が高いと語る。同氏によると、供給サイドは、米国内で増産によるエネルギーコスト軽減が目指されるが、シェールオイルなど国内生産の刺激効果に不確実性が大きいようだ。 もっとも前回政権時のような大規模増産は難しいとみられ、「政策支援の強度によって環境が大きく変わる可能性がある」と、政権動向に注目する必要性を説いた。 一方、前回政権時と同様にイランやベネズエラに対する制裁が実施されると、「供給制約が強まり原油相場は下支えされる可能性がある。特にイランは日量100万バレル規模の供給が失われるリスクが考えられる。供給リスクは戦争からトランプ政権に起因したものに中心軸が移行する可能性が高い」と結んだ。
楽天証券経済研究所の吉田哲コモディティアナリストは、25年のWTI原油相場は基本的に23~24年に続いた80ドルを挟んだプラスマイナス15ドル程度の65~95ドルのレンジ内を想定しており、留意点として「上下両方の圧力が強くなる可能性がある」と語る。とくにトランプ政権下で想定される「Drill, baby, drill(掘って、掘って、掘りまくれ!)」が本当に実現するか否かに注目しているという。 具体的には、米エネルギー情報局が発表する米シェール主要地区の掘削済井戸数の動向を重視しており、とくにパーミアン地区の掘削済井戸数は22年末以降、毎月450基程度を維持している点を挙げた。原油相場がレンジ内で推移している影響が大きいようだ。 また、バッケン地区とイーグルフォード地区は、かつてパーミアン地区と同等の原油生産量を誇り、屈指のシェール地区として知られていたが、14年後半から16年前半までの原油急落、いわゆる逆オイルショックと2020年の新型コロナショックの二度のショックに見舞われ、生産業者が激減し、掘削済井戸数は大きく減少してしまったという。トランプ大統領のエネルギー政策を具現化するには、「原油相場が13~14年のように100ドル付近まで高騰してバーミアン地区の掘削数増、さらにバッケン地区とイーグルフォード地区が「さびれた地区」から脱却すれば実現するかもしれない」(同氏)としながらも、いずれも難易度は相当高いとみる
②に続く
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