LPG=「2024年問題」で配送困難、物流インフラの脆弱さ浮き彫り
エネルギー供給の「最後の砦」と言われる液化石油ガス(LPG)の配送に黄色信号が灯っている。給湯などに使われるLPGが需要の最盛期を迎えるなか、時間外労働の規制強化でトラック運転手が不足する「2024年問題」が深刻化しているのだ。関東や東海などの需要地ではトラックを確保できず、需要家にLPGを配送できない卸業者が続出。配送距離の伸びる内陸の山間部などLPGを必要とするエリアほど運べない事態に陥っている。LPG事業者からは配送能力が「物理的に足りていない」との声が上がるなどLPG物流インフラの脆弱さが浮き彫りとなった。
「2024年問題」が噴出
2024年4月から運転手の時間外労働の上限が年間960時間となった。運転手の労働環境を改善するための国の施策だ。これにより、それまで問題視されていた運転手の過重労働は緩和した。
反面、トラックの稼働率が落ちた。関東エリアの燃料輸送会社は、これにより従来の繁忙期の物量を「運び切れなくなった」と指摘する。トラックの稼働率を上げるためには運転手の増員が必要だが、不人気な職種とみられており簡単ではないようだ。同社は配送運賃を引き上げることで、運転手の待遇改善を図ったが、運転手離れを食い止めるのがやっとだという。
すでに運転手の時間外労働時間が上限に迫っている運送会社もある。大手燃料輸送会社は、LPG事業者からの配送依頼が相次いだが、労働規制内では既存顧客の配送を行うのが精一杯だ。1月以降、既存顧客からのオーダーも配送エリアによっては受けられなく恐れもあるという。
長野の配送困難が深刻
こうしたなか、LPGの確保に苦慮するLPG小売会社や需要家が続出している。東海エリアの大手LPG小売会社は自社タンクへの持ち届けで購入する契約を結んでいる卸業者から12月の配送を断られたという。この卸業者はトラックの確保がままならず、供給責任を果たし切れなくなったとみられる。
12月後半からLPGの配送需要が急増したことが物流を逼迫させた面もある。この年末年始の休暇が例年よりも長いことから、連休中の小売需要を賄うため年内に在庫を満たそうとするLPG小売会社が多かった。また、LPG市場の需給が緩慢でスポット市況が割安だったことが需要を喚起し、事態を悪化させたとの指摘もあった。
とりわけ配送が困難になっているとされるのが長野県だ。神奈川、愛知、新潟などにあるLPG出荷基地から配送されるが、内陸ほど配送できない運送会社が多い。降雪で道路事情が悪化すれば、事態は今後さらに深刻化する。内陸の山間部などLPGが必要なところにこそ届けられないことへの警戒感が強まっている。
物流インフラが脆弱
LPG元売り各社は「2024年問題」に備え、早い段階から運送会社とトラックのチャーター契約を結び、自社のLPG配送の強化を着実に進めてきた。運送会社のフリーだったトラックが元売りの専用車に切り替わったことで、卸業者の配送が困難になったとの見方がある。
一方、大手卸業者は、配送強化を進めてきた元売りに配送を依頼しても受けてもらえないと指摘する。そのうえで、同社は運ぶべき物量に対して、物流能力が「物理的に足りていない」と、物流インフラの脆弱さに警鐘を鳴らす。
気象庁によると、1月20日までの気温は全国的に平年より低く、降雪量は東日本を中心に平年より多い見込みだ。LPG需要の増加と、配送の障害とが重なりそうだ。運転手の残業可能時間の余地も少なくなってくる。1月は事態がより悪化すると悲観する卸業者の声は少なくない。